社内待機を促進するチラシの作成・効果検証

概要

大阪府からの依頼で、中小企業経営者向けの防災ガイドライン「社員と会社を守る防災ガイド」のpdfにアクセスできるQRコードのついたチラシを2種類(チラシA、チラシB)、行動経済学の知見(ナッジ)を活用して作成することで、防災ガイドラインへのアクセス数の向上を図った。対象者を3つのグループにランダムに分けて、今まで使われていたチラシ(チラシC)とアクセス数の結果を比較した。

結果として、行動経済学研究会で作成したチラシAが、チラシB、チラシCのそれぞれに対して統計的に有意差があることから、チラシAについては、チラシBとチラシCに比べてアクセス向上に与える影響が小さいことがわかった。また、チラシBとチラシC間については統計的に有意差が見られなかったことから、これらのチラシが与えるアクセス数向上に与える効果は違いがあるとは言えないということがわかった。

背景

大規模災害によって公共交通機関が停止すると、多くの帰宅困難者が発生することが予想される。ここで、各事業所で従業者の社内待機を促進してもらうことで、従業員が帰宅困難者となって二次災害に遭遇、またその原因となることを防ぐことができ、従業員ひいては会社を守ることになる。そのために、大阪府は社内待機だけでなく企業防災についての基本的な考え方から、具体的な対策などをまとめた中小企業者向けの防災ガイドラインを作成して、動画やリーフレットを用いて社内待機の考え方の周知に努めているが、十分に認知されてはいない現状である。

ターゲット行動の設定と課題の特定

ターゲット行動の設定:

・社内待機という考え方を知ってもらい、実際に防災ガイドラインにアクセスしてもらう

課題の特定:

・そもそも企業防災の重要性を認識していないのではないのか

・現在バイアスが働くことで備蓄等の必要な準備を先延ばししてしまっているのではないか

・防災意識は高いが、何から始めていいのかわからないのではないのか

・従来の恐怖を煽るメッセージでは防災意識の向上につながらないのではないのか

ナッジの設計

倫理的な配慮を忘れずに、上記の課題を踏まえたポスターの作成

ポスターA:

・「多数の企業が準備を進めています」という文言とともに、備蓄している企業が多数であるという円グラフを掲載することで多数派の強調する

・「社員の命を守るための第一歩!」というメッセージで社会規範に訴える

ポスターB:

・参照点を災害時の公共交通機関が止まった場合に移すことで、防災準備の先延ばしを防ぐ

・社内待機の場合と一斉帰宅した場合の画像を載せることで比較してもらいやすくする

・クイズ形式にすることで、パンフレット自体に興味をもってもらう

(左からチラシA、チラシB、チラシC)

介入実施と評価

実施方法:

・評価デザイン:RCT(層別ランダム化)

・検証方法:2023年3月8日に一斉にチラシを配布し、2023年3月27日までのホームページへのアクセス数(セッション数)を集計→各群間の割合に統計的に有意な差があるかを検証するために、各群間で母比率の差の検定を行う

・アウトカム指標:各QRコードの読み込み率

・対象:大阪府内の企業1428社(各群476社)

(・倫理的配慮:本実験は、大阪大学大学院経済学研究科(承認番号R50303)および大阪大学社会経済研究所(採択番号20230301)の倫理委員会の承認を受けて実施している。)

評価:

実験の結果から、チラシAについて、チラシBとチラシCに比べてアクセス向上の効果が小さい(統計的に有意差あり)と言うことがわかった。3種類のチラシの中では、従来のチラシと参照点を移したチラシBが、防災ガイドラインのアクセス数向上に効果に違いがない(統計的な有意差なし)ことが明らかとなった。チラシBが最もセッション数の割合が高かったことから、今後の啓発ではチラシBが用いられることになった。

(集計結果)

(社内待機促進チラシ別のセッション数の割合)

課題だと感じた点

チラシAで行った工夫である利得強調について、載せるデータを変える、円グラフやナッジ・メッセージを効果的に見せるレイアウトに変更する等の修正をすることで、なぜ社内待機をする必要があるのか、そして、そのための防災対策の重要性について中小企業経営者の方々が興味を持つことで、今回の結果よりセッション数の割合が向上する可能性があるのではないのかと思われる。また、従来のチラシよりもアクセス数を向上させる(統計的な有意差あり)効果的なナッジ・メッセージについて考察していく必要がある。

参考文献

企業のための防災ガイド「社員と会社を守る防災ガイド」

https://www.pref.osaka.lg.jp/kikikanri/bousaiportal_hp/kigyoubousai_guide_b.html

出所:大阪府ホームページ

事業所における「一斉帰宅の抑制」対策ガイドライン

https://www.pref.osaka.lg.jp/kikikanri/kitakukonnan3/issei-gaidorain.html

出所:大阪府ホームページ

帰宅困難者対策について

https://www.pref.osaka.lg.jp/kikikanri/kitakukonnan3/index.html

出所:大阪府ホームページ

問い合わせ先(・著者)

大阪大学行動経済学研究会

Email: koudouken@gmail.com

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