ナッジ実践例の紹介を始めます!

行動経済学研究会では、ナッジの事例研究をすることで、効果的なナッジを作成できるように役立てています。ここで、皆さんにもナッジの実践例から、ナッジを身近に感じてもらうだけでなく、日々の生活に活かすことができるように、通年プロジェクトとして、自治体や政策に取り入れられているナッジ事例についてまとめたものをi-clubの記事に掲載することにしました!今回は、自治体のナッジ実践の例として茅ヶ崎市「市民討議会」の案内通知の変更事例について紹介したいと思います。

茅ヶ崎市「市民討議会」の案内通知の変更事例

概要

茅ヶ崎市「市民討議会」実行委員会が横浜市行動デザインチーム YBiTの協力のもと、2019年に茅ヶ崎市「市民討議会」の案内において、行動科学等の知見(ナッジ)に基づいた招待状の文面を作成し、「参加承諾書」及び、「不参加者アンケート」の返送率の向上を図った。対象者を2つのグループにランダムに分けて、従来の招待状と返送数の結果を比較した。

令和元年度第2回茅ヶ崎市「市民討議会」報告書によると、結果として、従来どおりの招待状と文面を変更した招待状で「参加承諾書」と「不参加者アンケート」の返信数に統計的に有意な差が観察されず、招待状の文面変更による返信率の向上・効果はみられなかった。

背景

茅ヶ崎市市民討議会の検証によると、茅ヶ崎市は2009年の「第1回茅ヶ崎市市民討議会2009」をきっかけに、市民討議会が継続的に開催され、2014年までに総計8つのテーマが取り上げられている。茅ヶ崎市は、市民参画によるまちづくりを促すために、無作為で抽出した市民の方々に招待状を送り、参加を希望される方には「参加承諾書」を、参加を希望されない方には「不参加者アンケート」の返送をお願いしている。しかし、「参加承諾書」と「不参加者アンケート」のいずれも、返送率が低下傾向にある。

ターゲット行動の設定と課題の特定

ターゲット行動の設定:
・招待状を受け取った市民の方々に、参加者承諾書又は不参加者アンケートを返送してもらう。

課題の特定:
・従来の招待状では字が多く、読解が面倒ではないのか
・そもそも、市民討議会というイベントに市民の方々が魅力を感じてないのではないか

※ナッジ理論を活用した通知文の変更とその効果 ~RCTでの検証2事例の紹介~ 第16回YBiT研究会2020年3月11日茅ヶ崎市総務部市民自治推進課勝山明日香事例発表② より

ナッジの設計

倫理的な配慮を忘れずに、上記の課題を踏まえた招待状の変更

行動科学等の知見(ナッジ)に基づいて行った招待状の工夫:
・インセンティブによりターゲット行動を促すために「通知が届いた方だけ」、「あなたに意見を求めている」等の文言を封筒と招待状それぞれに挿入
・概要説明の文書のレイアウトを、視覚的に捉えやすく変更
・文字数を減らし、視覚的にとらえやすいレイアウトに変更
・何を返送すべきか考える手間を省けるよう、明確な動作指示(フロー)を提示
・市民の方々に関心を持っていただけるよう、過去の参加者の満足度などを提示
・「参加承諾書」と「不参加者アンケート」を一目で判別がつくように、カラー用紙に印刷

(出所:https://www.slideshare.net/KaoriUetake/200311-ybit-chigasaki-city)

介入実施と評価

実施方法:
・評価デザイン:RCT(層別ランダム化)
・検証方法:返送期限までの消印があるものをメッセージごとに集計
・アウトカム指標:返送率(返送数)
・回答方法:郵便で返送のみ(一部窓口持参者もいた)
・対象:満18歳以上の市民約20万3千人から無作為抽出した2,200人
   (参考)茅ヶ崎市人口:約24万2千人
    →従来群:1,100人(うち3通が行き先人不明で未達)
    →ナッジ群:1,100人(うち3通が行き先人不明で未達)
・倫理的配慮:どちらの郡の通知を受け取っても、受け取る情報には差が生じない
検証のために返信有無のデータを取るが、個人が特定されることのないよう、匿名化処理して集計する等

結果

・令和元年度第2回茅ヶ崎市「市民討議会」報告書によると、参加承諾書の返送数は、従来の招待状を受け取った場合で5通多く、不参加者アンケートの返送数は、文面を変更した招待状を受け取った場合で19通多かったが、いずれも誤差の範囲内(統計的な有意差なし)であり、変更による向上・効果は認められなかった。

出所:https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/036/440/houkokusyo.pdf

課題点

結果からわかることとして、招待状を視覚的に捉えられやすいレイアウトに変更したが、依然として情報量が多かった可能性や、招待状で最初に目に触れる文章(鑑文)の行政文章らしい体裁をとったままであることが以降の文章を読むことを阻害している可能性があるのではないか、と推察される。この事例は、ツールキットに沿ってナッジを活用したものであるが、それだけでは必ずしも効果が見込めるとは限らないということを示唆しており、可能であれば事前の分析やプレ検証をすることが重要であるということを示唆している。

参考文献

市民等議論について
https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/public/tougi/1007687.html
出所:茅ヶ崎市ホームページ

茅ヶ崎市市民討議会の検証
https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/687/shimintougikai_kenshou2.pdf
出所:茅ヶ崎市市民討議会実行委員会

ナッジ理論を活用した通知文の変更とその効果 ~RCTでの検証2事例の紹介~ 第16回YBiT研究会2020年3月11日茅ヶ崎市総務部市民自治推進課勝山明日香事例発表②

出所:Yokohama Behavioral insights and design Team :YBiT

令和元年度第2回茅ヶ崎市「市民討議会」報告書
https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/036/440/houkokusyo.pdf
出所:茅ヶ崎市ホームページ

問い合わせ先

大阪大学行動経済学研究会
Email: koudouken@gmail.com

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