活動紹介
私は、「匂いの刺激に対するヒト嗅覚受容体の応答を可視化・定量化できる“嗅覚受容体センサー”」の研究開発に携わっています。このセンサーは、ヒトの嗅覚受容体を細胞に発現させることで、香りに対する生体の反応を人工的に再現・記録できる技術です。いわば、「人工の鼻」とも呼べるものです(リンク:株式会社香味醗酵 – 匂いを数値化する会社)。私の研究では、アロマに含まれる匂い成分が、どの受容体にどのように作用するかを分子レベルで解明し、このセンサーの性能を改良しました。その結果、これまでブラックボックスだった嗅覚受容体の反応を、数値データとして“見える化”し、解析できるようになりました。この技術によって、「匂いが鼻でどのように認識されたのか」を科学的に説明することが可能になります。
また、効能が共通するアロマのデータを集めれば、背後にある共通の“受容体応答パターン(マトリクス)”を抽出することができます。これは、香りを医療やヘルスケアに応用する際の“個別化・最適化”にもつながる、重要な基盤技術になりうると考えています。
プロジェクトに対する想い
私はもともと看護師として急性期病院で働いており、日々の現場で、薬や手術といった西洋医学だけでは対応しきれない“苦痛”や“つらさ”に直面してきました。特に、身体疾患に加えて精神的な不安や疾患を抱える患者さんが多く、そうしたケースでは予後にも大きな影響があることを実感しました。
補完的なケアの手段としてアロマの導入を試みましたが、現場で広く活用するには課題が多くありました。たとえば、「匂いが身体のどういった経路を通って、最終的にリラックスなどの効能を発揮するのか」という作用メカニズムの科学的根拠が乏しく、使用対象や場面が限られてしまうのです。
こうした課題に対して、科学的根拠に基づいたアロマを活用」が必要だと考えるようになり、看護師を辞めて大学院に進学し、分子・細胞レベルでアロマの作用を解明する研究に取り組んでいます。

i-Squadでの抱負
i-Squadでは、この嗅覚受容体センサーの開発をさらに進めつつ、医療やヘルスケア分野への社会実装の可能性を検討していきます。具体的には、現場のニーズ調査や、先進事例・制度・市場環境の分析を通じて、実装の足がかりを探ります。
将来的には、「香りの効能を経験則ではなく科学的根拠で語れる世界」を実現したいと考えています。それによって、アロマは単なるリラクゼーションの手段から、医療の中で科学的に信頼される補完的ケアの選択肢へと進化できるはずです。
このプロジェクトは、ディープテックとしての技術的革新性と、医療・福祉分野における応用可能性を併せ持つ挑戦です。i-Squadの中でその実現性を高め、社会に届ける足場を築いていきたいと思っています。
